今日の毎日新聞:「日曜くらぶ」
旧暦どっぷり:★今日は旧暦十一月三日
松村賢治氏 より
「女郎の誠と玉子の四角、あれば晦日に月が出る」
晦日の月とは、四角い卵が存在しないように、有り得ないことのたとえです。
広辞苑で晦日を引きますと「月の第三十番目の日。転じて、月の末日をいう」とあります。
つごもりは「月籠(つきごもり)」、「晦日」と同じ。
旧暦時代は二十九日か三十日でした。その翌日が朔日(ついたち)で月の第1日です。古典の日付で月末や月初めは、必ず闇夜です。
今日、三日月で何日振りに、月が出た。
http://one20020530.iza.ne.jp/blog/entry/817870
閑話休題
以上のことがわかっていないと、無味乾燥になりかねない古典があります。近松門左衛門の「大経師昔暦(だいきょうじむかしごよみ)」という浄瑠璃は、旧十一月一日が闇夜であることで、ドラマが成り立っているのです。
主人公の大経師以春は京都暦商社の主人。時は貞享元年十一月一日。この日は平安時代から暦領布の初日でした。宮中や主客へ暦を配り終え、以春がホッと一息入れているところから幕が上がります。
題名の「昔暦」とは、渋川春海編集の貞享暦以前の暦のこと。芝居は実話に準じて、ストーリーが展開します。
以春がチョッカイを出そうとしている女中のお玉。それを聞いた女房のおさん。二人は話し合ってお玉の部屋におさんが寝て、以春のたくらみを止めることになりました。
一方、手代の茂兵衛は、おさんの両親の願いをかなえようとして小さなしくじりを犯します。それをかばったお玉。日ごろからのお玉の厚意を感じていた茂兵衛は闇夜の真夜中、手探りでお玉の部屋を訪ねます。あろうことか、そこに休んでいたのは主人の妻、おさん。そのことに気づくはずもありません。闇の中でおさんと茂兵衛は死罪に値する大罪を犯し、二人の針の筵の逃避行が始まります。
今も人気のこの芝居、初演は正徳五年、処刑されたおさんと茂兵衛の三十三回忌、竹本座の正月公演でした。
同じ貞享の改暦を扱った近松の作品に「賢女手習幷新暦(けんじょてならいならびにしんこよみ)」があります。
こちらの初演はまさに新暦施行の貞享二年の正月でした。
親の敵同士が法皇の命で改暦の資料集めに旅立ちます。
中国の宣明暦を使い続けて800年。2日の誤差を修正したのが題材の「新暦」です。改暦という大事件では、直後の初演で「新暦」が、30年後には、「昔暦」が作品名に付され、暦が舞台の主役を務めて世間の関心に応えたのです。
と、今日は、三日で三日月なんですね。